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最高裁判所第三小法廷 昭和25年(オ)228号 判決 1953年3月17日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人代理人由井健之助の上告理由(二通の書面に記載)は末尾添附別紙記載のとおりである。

右二通の上告理由各第一点及第四点に対する判断。

原判決挙示の証拠によれば原審認定の事実を認め得ないではない。所論所有権留保の点についても少なくとも黙示的にその意思表示があつたものと認めることが出来ないものではないのであつて原審の認定に実験法則に反する違法あるものということは出来ない。所論山村証人の証言も只明示的意思表示はなかつたというだけであり、その他所論各資料によるも未だ原審の認定を以て実験則に反するものとすることは出来ない。所論判例は特約のない場合についての判例であり、本件において原審は特約があつたものと認定したのであるから右判例は本件に適切でない。それ故論旨は採用出来ない。

同第二点に対する判断。

借家法により第三者に対抗し得る賃借権は競売公告に記載なくとも、それにより右対抗の権利が消滅するものではない。それ故被上告人が本件賃貸借を以て上告人に対抗し得るものとした原審の判断は結局正当である。また所論の書証については原審が判断していることは判文上明白であつて、裁判所はその採用しない証拠につき一々採用しない理由を説明する必要はない。それ故論旨は理由がない。

同第三点に対する判断。

原審は賃料を支払つて居たという事実だけで賃貸借ありとしたのではない。此の事実を一の資料とし、これに他の資料を綜合して原判示特約の事実を認定したのであつて、右特約が認められる限り賃料を支払わなくても代金全部の支払が無い限り所有権は移転せず、従つて賃貸借ありとした原審の判断に所論の様な違法はない。それ故論旨は採用に価しない。

よつて民事訴訟法第四〇一条、第九五条、第八九条に従い裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)

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